「東北地方太平洋沖地震」の文言が加わっただけとも読み取れます。
政府としては影響をまだ測りかねているというところでしょう。
富士通総研米山氏はレポートで、
この震災についての被害額、見通しについて言及しています。
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いくつかの民間機関が出している直接被害額は10~15兆円程度で、
阪神大震災時と同程度から1.5倍
アメリカの災害リスク評価会社EQECAT(カリフォルニア州)は、
今回の地震に伴う地震保険対象の損害額は80億~150億ドル
(6,400億~1兆2,000億円、1ドル=80円で換算)と試算している(3月16日)。
これに対し、阪神大震災時の地震保険の支払い総額は783億円だった
(日本損害保険協会調べ)。
生産面の間接被害は、他地域の供給に切り替えることによって、
ある程度は克服できる性質のものであり、
日本経済に長期にわたって悪影響を及ぼすものではないと考えられる。
GDP統計上は、1~3月期は生産が下押しされることでマイナスの影響を与えるが、
4~6月期以降は徐々に悪影響は解消していくことになるのではないか。
順調に推移すれば年後半には復興需要が本格的に出てくることになる。
財源確保のアイディアとしては、現在までに通常の国債発行のほか、
無利子国債の発行、震災復興国債の発行、消費税率の時限的引き上げ、
環境税などが出ている。
ハイテク技術を駆使した農水産業の復興、
新たな街づくりの実践(コンパクトシティ、海外から見て魅力的な観光資源の開発など)、
原発のより一層の安全性の確保と新エネルギーへの移行促進などが考えられる。
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阪神大震災の被害額よりも大きなものになるということ、
また米山氏は生産面の間接被害について、
企業は東北地方から他地域に生産拠点を移すことによって
GDPについては楽観的見通しをしています。
やや疑問ですが。
年後半の復興需要については
おそらく間違いないことと思います。
4月までに政府が出すであろう復興計画に
さまざまな計画が出てくることでしょう。
問題は財源をどうするかということです。
無利子国債、震災復興債、増税、日銀引き受けなど
いろいろなアイデアがあると思いますが、
どれも一長一短のところがあり、
むずかしいところです。
一方、大和総研のレポートは以下の通りです。
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2011年度の実質GDPを押し下げる5つのルート
「(1)東北地方の経済活動の低迷(2011年度の実質GDPの押し下げ幅の暫定的な想定:▲0.2%)」
「(2)計画停電等による生産減(同:▲0.2%)」
「(3)消費者マインド悪化等による個人消費の下振れ(同:▲0.2%)」
「(4)5円の円高・ドル安進行」は、実質GDPを2011年度に▲0.1%弱、12年度に▲0.3%押し下げる。
「(5)今後、原発事故の被害が拡大した場合の悪影響」に関しては、現時点では全く予測不能
上記(1)~(4)を合計しただけで、11年度の実質GDPは▲0.7%以上、下振れ。
上記(5)の動向次第では、日本経済が更なる悪化を示す可能性があり要注意。
将来的には復興需要が実質GDPを下支え:
他方で、2011年7-9月以降は、復興需要が実質GDPを下支えする見通し。
現時点では、2011~2013年度にかけて、復興需要が実質GDPの水準を+0.5%ずつ下支えする展開を想定。
この結果、景気下振れ要因(上記(1)~(5))がこれ以上拡大しない場合には、
2011年度を通して見れば、実質GDPに対するネットベースの押し下げ幅は、
比較的小さなもの(▲0.2%程度)に留まる可能性もあろう。
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この線が腑に落ちます。
4-6月期はけっこう大変な数字が出てくるように思いますが、
7-9以降は、復興需要で戻せるという分析です。
日本総研の湯本氏のレポートは以下の通りです。
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フローの経済活動は、この3 月以降少なくとも2~3 四半期にわたって
下押し圧力が続き、マイナス成長となるリスクがある。
電力不足の長期化でサプライ・チェーンの復旧が遅れれば遅れるほど、
東日本地区の生産機能は、西日本のみならず
アジア、海外諸国に一段とシフトし、
産業基盤が完全に空洞化する恐れすらある。
(復興には)全く新しい基盤づくりが必要。
例えば、東北地方を道州制導入のモデル地域に指定し、
韓国、台湾との競争に打ち勝つことのできるスーパー港湾、
ハブ空港、基幹道路・鉄道整備に資源を集中する。
また、政府が掲げてきた未来型環境都市づくりも必要だ。
太陽光、風力など再生可能エネルギーを核としたスマートシティーを
実証実験のレベルではなく、現実に構築する。
そこでは、新しいエネルギー・マネジメント・システムをベースとした
次世代の生活システム(在宅勤務、エコカー、電動自転車、エコ住宅、
エコ家電などのシェアリング・システムなど)が導入される。
高齢者が安心して暮らせるコンパクト・シティーづくりも必要だ。
阪神淡路大震災時の復興需要は、最終的に17 兆円近くに上ったが、
今回は、官民合わせて向こう5 年間で20~30 兆円の資金が必要になるだろう。
長期金利の高騰という市場の反乱を未然に防ぐためには、
当面期間1 年程度の復興特別国債(利子課税免税)を発行することは已むを得ないが、
その財源確保は、国民全体が被災地域を支援する観点からの
特別増税(期間限定、被災地は免税措置導入)によって賄うこと
を予め約束しておくべきである。
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復興にまったく新しい基盤作りが必要というのは、
なるほどと思いました。
スマートシティのみならず、
東北が新しい街づくりをするチャンスといえるかもしれません。
資金確保は難題ですが、
いまこのときに増税をするのは
なかなか景気に与える影響を考えるとむずかしいように思います。
いずれにしても、
東北はまだまだ人命救助第一、復旧作業の段階ではありますが、
日本全体としては、また世界経済の観点から言えば、
復旧から復興へ議論が変わりつつあります。
【参考】
「月例経済報告(平成23年3月内閣府)」米山秀隆「東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓(1)巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響」富士通総研 2011年3月22日(火曜日)
熊谷亮丸ほか「日本経済見通し:東北地方太平洋沖地震の影響に関する暫定的な見解」大和総研
湯元健治「東北地方太平洋沖地震の影響と復興支援のあり方」日本総合研究所
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