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【再録】人間が担保である─小原鐵五郎(城南信用金庫理事長)その5─昭和時代の私の履歴書

昭和の偉人たちが何を考え、失敗にどう対処し、
それをいかに乗り越え、どんな成功を収めたのか、

日本経済新聞に掲載されている、
自伝コラム「私の履歴書」から
探ってみたいと思います。



私の履歴書─昭和の経営者群像〈9〉



小原は夢中になって勉強しました。
夜に遊び、夜に学ぶ。

しかし大正9年以降の慢性的不況は一段と深刻化し、
昭和2年に金融恐慌を迎えます。


倒産第一号は広部銀行。
広部清兵衛という人は、不動産鑑定では日本一の権威者でしたが、
不動産への投資が過ぎたのでした。

それから古河銀行、安田貯蓄銀行などまで取り付け騒ぎに。
続いて、鈴木商店、台湾銀行。

こうした混乱は全国の産業組合にも影響してきたので、
産業組合中央会は、

資金融通の便と貸し出し抑制、
引き出し制限などを指令してきました。

大崎信用組合にしても、取り付けにあったらこれに応ずることはできません。

そこで小原は、
組合員の総代会を開いて、組合の立場を説明、
一方では皆のハラのなかを聞きました。

そして出た総代会の結論は、

「出資金、預金の払い出しを請求する者が出てきたら、
 払ってやればいいじゃないか、
 われわれがそれ以上の金を持ってくる」

でした。


当時、

出資払込金は、35万2,083円
貯金総額は、96万3,062円
貸付金総額は、114万9,833円

でした。

───────────────────────────────
【引用ここから】

おそらく、その日出席した組合員の中にも

「この際、出資金を引きあげよう」

という気持ちの者もいたに違いないが、
大多数の組合員は私のことばを信じて、
かえって協力を約束してくれるまでになっていた。

だから、昭和二年四月二十二日から三週間にわたってしかれたモラトリアムにおいても

「大崎信用組合」は当日

「どうぞ、ご希望の方は、いくらでもお引き出し下さい」

とはり紙を出したほどである。


組合員が協力を約束してくれる以上、
会員組織である「信用組合」に取り付けの心配はまずない。

しかし、「もしかしたら・・・」
といういちまつの不安がなかったと言えばうそになる。

だが、ふしぎなもので、
こうしたはり紙を出したことが、
かえってみんなに安心感を与えたのだろう。

一般預金者でさえも姿を現わさなかった。


【引用ここまで】
───────────────────────────────


この年、例年に比べて資金量は伸び悩みますが、
それでもなお、約20万円の増をもたらします。

しかも翌三年には、事務所として鉄筋コンクリート四階建て(約五百平方メートル)、
当時としてはきわめて近代的なビルを建築したのでした。



小原は昭和5年4月に産業組合中央会主催の
雄弁大会で一等をとります。

そのころの主張は終始持ち続けた思いだったようです。


担保主義、それは金融機関として自己を守る手段として当然なことかも知れないが、
自分の城を守る利潤を追求する前に、

金融機関というものの使命は、
企業を育てる、国民生活を向上させるという義務があるはず。


小原は“人間が担保である”という考えでこれまで進んできました。

「人の性は、これ善なり」


担保を取って金を貸すのとそうでないとでは、
受け取る側のありがた味に雲泥の差がある。

「そこまで、この私を買ってくれるのか」

この気持ちが事業に大きな作用をもたらすのであると。


それから、融資する金は、少なくても、
また、多くてもいけないと小原は述べています。

少なければ、足りない分を高利の金融機関に求めることになるし、
多ければ多いで、また貸ししたり、別事業に手を出しかねない。

あくまで、その人間、器量に応じた融資態度が必要であると。


小原はここで徳川家康が天下をとったときの

“論功行賞”

に示唆するものがあると言っています。

三河以来の家来の一人、
近藤登之助には、わずか五千石しか与えていないのでした。

彼とて大きな功労があったはずでしたが、
それは家康がケチだったからではありませんでした。

家康は彼を「それだけの力」しかない男である、
それ以上の知行を与えるとかえって人間をダメにすると見たからなのでした。


昭和6年秋、満州事変の勃発で五反田周辺は、
中小工場の進出でにぎわい、

「大崎信用組合」

は一転して、
これらの工場育成という大役に取り組まねばならなくなりましたが、
小原はこの「融資哲学」で事に臨んだのでした。


それでは、
小原は具体的に中小企業にどのように融資をしていったのでしょうか?



続きはまた来週に。




私の履歴書─昭和の経営者群像〈9〉



昭和の高度経済成長を築きあげた経営者たちの私の履歴書。
過去の記事はこちらからどうぞ。









(第1239号 平成26年2月4日(火)発行)
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