その中でもおもしろかったのは、
成功している企業の成長要因の典型的回答が、
「ビジョン」
「事業の集中」
「人材」
というところにあったことです。
やはりビジョンは重要だと再確認しましたが、
事業の集中というのは忘れてしまいそうになるときはありそうです。
本書で紹介されている、
イタリアのカシミヤ製品の会社、
「ブルネッロ・クチネッリ」
はとりわけ興味深かったです。
1978年起業。85年本社を移転します。
それまでグレーの紳士服をメインとしていたカシミアを、
カラフルでユニセックスな素材に変えます。
2012年、ミラノ株式市場に上場、従業員は約1000人。
いまやエルメスなどと同等のブランドとして、
富裕層から評価をされています。
カジュアルな普段着をカシミアで、
つまり日常生活の質を向上させることに同社の狙いがあるそうです。
そして85年に本社を移転したソロメオという町は、
当時中世の崩れかけた建物が目立つさびれた町でした。
しかしそこでこの会社が行った事業はすばらしい。
社員食堂は、気楽な大衆食堂風に。
現場の従業員にもイタリアの工場労働者平均より20%高い給与を払います。
ソロメオの街の一つ一つの建物、
その周辺の村の教会や道路も、
同社が修復していきました。
修復するだけではなく、
スポーツ施設や劇場も造り、
新しい時代の街の文化そのものをつくることをめざします。
丘の上にある本社の横には、
250人を収容する劇場をつくり、
その前面には古代ローマ庭園を模するスペースも設けます。
また、クラフトマンシップの学校を開校し、
人材育成にも力を入れます。
ルネサンス期の工房が
職人=芸術家=文化の創造者であったことを参考に、
本業のニット技術だけでなく園芸や左官のコースも設けています。
生徒には奨学金を支給、
また一般向けのアカデミアという教養や語学あるいはダンスなどを学ぶ機会も設けており、
ここは社員も地元民もすべて有料で参加できます。
経営者である、クチネッリ氏は、
以下のように述べています。
「私はブルネッロ・クチネッリを自分の企業だとは思っていません。
会社と社員の人生をたまたま預かっているのです。
生きとし生けるものの一部を預かった守衛のようなものです。
普通、企業のオーナーは失うことへの心配しかしないものですが、
城の守衛は300年先を考え、建築修復家は500年先まで考えるものです」
経営学者やメディアは彼の経営スタイルを、
「倫理資本主義」
と呼んでいます。
欧州には彼のように、
損得を超えたところにある概念でビジネスをしている人がいます。
そしてわが国日本にも、
武士道精神は損得を超えた概念として存在していたわけですし、
実際クチネッリも、
「欧州の騎士道にあるような言葉は日本の時代小説に、
またキリスト教の言葉にあたるものは禅宗あたりに、
日本のビジネスパーソンの頭に自然と入る適訳があるのではないか」
と言っています。
公益経済、
そして倫理資本主義。
世界的に注目されるイタリアのベンチャー企業から学びつつも、
同時に日本のタテイトをたどると大きなヒントがあるように感じます。
縦横無尽に「つくるヒント」はありますね。
安西洋之『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』
- 関連記事
-
コメント