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百億貯蓄五か年計画に観劇と旅行─小原鐵五郎(城南信用金庫理事長)その9─昭和時代の私の履歴書

昭和の偉人たちが何を考え、失敗にどう対処し、
それをいかに乗り越え、どんな成功を収めたのか、

日本経済新聞に掲載されている、
自伝コラム「私の履歴書」から
探ってみたいと思います。



私の履歴書─昭和の経営者群像〈9〉
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4532165091/cuccakatsu-22/ref=nosim

戦後、前身十五組合から出征、徴用に狩り出されていた者が、
一時にどっと戻ってきました。

ふくれあがった職員288人をどう食べさせるか。
大問題となります。

職員を集め、給料を半分にする、
残りたいものだけ残るよう訴えました。

この大きな苦労を乗り越えますが、
終戦の年から翌年一月にかけて、
今度はものすごいインフレに見舞われます。

政府は、

「モラトリアムは絶対に行わない。
 インフレ防止のため、貯蓄増強につとめられたし。」

と依然として貯蓄増強を訴えるだけ。

城南信用組合も、

「新日本建設貯金」
「年末貯蓄増強運動」


を実施します。


しかし実は、この間に政府はひそかに、
悪性インフレ対策として「緊急措置」を計画していたのでした。

小原も市信組の代表として、やがて、

「財産税調査立案に関する委員会」

の委員をおおせつけられます。

構成メンバーは、

大蔵省主税局長池田勇人、
国税二課長前尾繁三郎ら、

民間側は鉄鋼関係をはじめとした業界代表、学識経験者ら、計14,5人。


審議事項は秘密とされますが、
小原は有力者から訪問されても、
わが家はもちろん、

城南信用組合に対しても、
その対策を講じるような言質は与えなかったのでした。


そのころの池田はスマートな首相時代とはちがって、
なりふり構わぬ男ぶり。

ワンマンぶりだけはそのころからあったと。


昭和21年2月、
金融緊急措置令、日本銀行券預入令、臨時財産調査令を公布、
猛威をふるったインフレも、ある期間、鎮静させることができたのでした。


その後新円切り替え、
戦時補償打ち切りに伴う一連の経理措置が打ち出され、
「城南」も大きな難関に出くわします。

組合の資金は、新勘定と旧勘定に分離され、
やがては出資金の九割は切り捨てというハメに陥ります。

このときのことを小原は、出資者に気の毒なことをしたと回想しています。



まさに“戦後処理の期”でしたが、
昭和24年4月「百億貯蓄五か年計画」の一大目標を立て、
五年間邁進します。

“再建─飛躍の期”

でした。

そのときに5億の預金高を、
五年後には百億にしよう
というのですから、
無謀ともいえる計画でした。


小原は一日、
課長、支店長クラス以上の幹部を湯河原の旅館に自費で招待します。

小原は、この天文学的な数字を達成するには、
職員、特に幹部の“思想”をまとめなければ、
絵にかいたもちで終わると思っていたのでした。


席上、小原が第一次五カ年計画を発表すると、
皆、唖然とします。


「とても、そんな夢みたいな計画は、できるものではない」

との反論。


──────────────────────────────
【引用ここから】

しかし、私は

「反論結構、ともかく、みんなでこの問題をひと晩、ディスカッションしてくれ。

 私としては、戦後の日本をささえるのは中小企業だと思っている。

 政府としても、その点、あれこれ考えているだろうが、
 信用組合としても、彼らにじゅうぶんな資金供給ができるよう努力するのが義務であると思う。

 それに従業員の生活向上も考えなければならない。

 確かに今は厳しい経済環境だが、
 不景気のドン底からはい上がろうとするところにも大きな意義がある……」

と述べて、皆のシリをひっぱたいた。


「できない」「すべきだ」などと、
夜おそくまで議論は戦わされた。

そして、ついに意見が一致した。

「百億、ひとつ、やってやろう!!」


【引用ここまで】
──────────────────────────────


具体的に百億貯蓄をどうすればできるか、
各人各様の意見が出されましたが、

要はいかにして貯金の楽しみを教えるかでした。


小原はこうした人間心理を踏まえ、
観劇、続いて旅行への招待を景品にした月掛け貯蓄戦法を編み出しました。


一口十万円にはいった人には観劇、
五口五十万円以上はいった人には、旅行。

観劇、旅行の楽しさを、
次第に貯金の楽しさにすりかえて行こうというねらいでした。


この計画が当たります。


次第に月掛け貯金加入者がふえ、
多いときには七日間ぐらいぶっ続けで劇場を借り切るほどに。

戦後、極端に芝居人口が減っていたころ、
ともかく、一興行、数千人という人間を劇場に送り込み、
また、芝居の興味を与えたことは功績だと小原は回想しています。

劇場も役者も大喜びで、
興行のはじまる前には競って小原のところにあいさつにきたのでした。

旅行招待も、
伊東、湯河原、長岡、修善寺、戸倉、伊香保などを使います。

こちらも最盛期には、五千人の招待客を数え、
客車貸し切りで、一日700人ずつ送り込みました。

一行が駅に着くと、
駅頭には職員はじめ、旅館従業員、みやげ物店員、芸者たちが、

「歓迎!城南信用組合」

の旗を持って勢揃い。
時には芸者が手踊りでこれを迎えました。


この作戦のおかげで、成績はぐんぐんあがります。
そして五年目には百億にこそ達しませんでしたが、


85億


16倍の預金獲得に成功したのでした



この小原の作戦は、

目標を立てそれに向かって行動することの大切さ、
ただやみくもに営業するのではなく、
ひと工夫を加え顧客に喜んでもらうこと、
話題づくりによる広告宣伝効果など、

起業家にとっては大きなヒントがいっぱいあるように感じました。




続きはまた来週に。




私の履歴書─昭和の経営者群像〈9〉




昭和の高度経済成長を築きあげた経営者たちの私の履歴書。
過去の記事はこちらからどうぞ。

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