2014/03/09
侵攻ではないロシアの軍事圧力─ウクライナから独立を希望するクリミア自治共和国
ウクライナ情勢が国際政治をにぎわせています。欧米とロシアの対立が取りざたされていますが、
実際のところはいったいどうなのか、
そして日本外交はどのような影響を受けるのか、
現在緊迫している東アジア情勢にどのような影響を及ぼすのか、
冷静に注視していかなければなりません。
ヨーロッパから見たウクライナ情勢について、
大和総研のレポートが公開されていますので、
みなさんにシェアしたいと思います。
日本国内のテレビや新聞だけではなく、
欧米メディアやこうしたシンクタンクの様々な資料に目を通すと、
複合的な視点を得ることができますね。
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【レポート要旨】
ウクライナ南部のクリミア半島で 3月 2日、
ロシア軍がウクライナ側の武装解除を進め、主要空港を制圧するなど軍事圧力を拡大した。
歴史的にクリミア半島はロシア領土の一部であった経緯もあり、
ロシアに帰属することが当然との認識を持っているロシア国民が未だに多いといわれる。
またクリミア自治共和国は、住民の約 6 割がロシア系住民といった事情もあり、
(国内世論の後押しもあり)自国民保護の名のもとに軍事圧力を行ったことに対するプーチン大統領への支持は高いようだ。
欧州首脳や専門家の一部では、
今回の軍事圧力を一方的に非難する姿勢を示してはいない。
ロシア側が、あくまでも無血を宣言し、
自国民保護として人道的な配慮が高かったことをむしろ評価する声明も見受けられる。
また欧州各国の各種報道では、
侵攻(Invasion)という言葉を断定的に使用していないことへの注意は必要であろう。
これは今回の一連のロシア軍の行動を旧ソ連軍のアフガニスタン侵攻と同列には評価していないことが推察される。
(米国が計画している)ロシアへの経済制裁は、
金融市場に大きな混乱を招くと予想されるため、事実上実施は困難との見方が強い。
特にシティでは資金、人材共に大きくロシアに依存している部分もあり、
口座凍結などの制裁を行った場合、各金融機関の通常業務が大きく阻害される恐れがある。
現段階で英国がその制裁に加担するとは想定しづらく、米国の独り相撲で終わる可能性も高いといえよう。
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日本国内の報道を見ていると、
ロシアの軍事行動に対し欧米が強く反発しており、
ソチサミットの開催も危うく、
またパラリンピックも欧米諸国がボイコットするのではないかというような報道がありました。
しかし実際のところは、
必ずしもロシア批判一辺倒というわけではないようです。
わが国としては、慎重に国際情勢を見ていかなければなりませんが、
ここでまちがいなくいえるのは、
国際政治におけるアメリカの影響力が低下してきているということであり、
これがオバマ政権による外交の失敗という一時的なものなのか、
米国そのものの力が失われてきている結果なのか、
中長期的な日本外交を考えていくうえでは、
見極めが重要になってきます。
自由と民主主義という価値観を共有する米国と、
そうではない大国との関係を同列に扱うことはできませんが、
今回のウクライナ情勢を見てもわかるように、
国際政治は、パワーとパワーのぶつかり合いであり、
そこに道徳や倫理は必ずしも必要とされない場合があるという不条理を感じます。
そんな国際情勢のもとで、
わが国のあるべき方向をまちがわないよう判断していくことが、
政治には強く求められます。
⇒ 「侵攻ではないロシアの軍事圧力─ウクライナから独立を希望するクリミア自治共和国」
(2014年3月6日、大和総研ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト 菅野 泰夫)
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