2009/12/07
特別会計の無駄
特別会計も視野に入れると、総額300兆円の金が動いている一般会計=国の予算のうち最も基本的な予算(社会保障、教育、公共事業)
特別会計=一般会計でまとめて経理するとかえって国の財政の入り繰りが分かりづらくなる場合などに、一般会計と区分して国の特定の収入と支出を経理するため特別に設置
→国が特定の事業を行う場合
特定の資金を保有してその運用を行う場合
経理内容の明確化、行政コストの効率化を意図する会計
特別会計の規模=2008年度予算ベースで歳出総額は368兆円
→会計間の重複を除いた特別会計額の歳出純計額は178兆円
→純計額の内訳
国債償還費・利払い費(国の借金の返済費用)88.6兆円
社会保障給付費(年金・健康保険給付費)52兆円
財政融資資金への繰り入れ9.9兆円
地方交付税交付金等16.7兆円
これらを除いた残額11.2兆円が、特別会計制度そのものを切り口とした無駄の対象となる予算規模
→この内訳
公共事業5.4兆円
社会保険関係2.1兆円
食料安定供給1.2兆円
特別会計のメリット
すべての経費を一般会計でまとめて計上するのは、予算編成上の効率性からみても、また、情報公開の視点からも必ずしも有益ではない
一般会計とは別勘定で計上することで、ある政策目的にかかる資金の流れをより明確に開示できる
1、人々が税金、保険料、料金など、政府への収入と政府の当該活動に伴う歳出との関係をより理解するようになる。たとえば、年金の保険料は年金の給付に使われることが年金の特別会計で明らかになる。
2、その結果、政府の歳出の受益と負担の関係がより明確になって、予算の内容が国民の選好とより適合するように選択される。たとえば、保険料を引き上げると給付も増加するという関係が特別会計ではっきりするので、負担と給付の大きさを国民が選択するうえで有益な会計情報となる。
3、各会計別に収支が公開されるので、どの会計がより赤字になりやすいかなどの情報が公開される結果、国民の監視が働きやすくなる。その結果、より効率的な財政運営をするように政府に圧力がかかる。
4、特別会計は「ある特別の税収」と「ある特別の歳出」との間にリンク(一定の強い関係)を設定することで、歳出における自由度を制約して、選択の幅をあらかじめ縛る効果がある
→硬直的な会計制度、ある状況では有権者の意向を政治に反映させやすいというメリット
特別会計の問題点
こうした会計が多数設置されることで、予算全体の仕組みが複雑で分かりにくくなり、会計が分立することで予算全体としての効率性がそこなわれかねない
それぞれの特別会計ごとに所管の省庁が付いているため、各省庁の既得権の温床になっている
一般会計からの繰り入れや借り入れの存在等により、事業収支における受益と負担の関係が不明確になっている
補助金投入が特別会計を管理する省庁の意向に沿う形でいい加減に行われているという批判
→事実上、予算制約がソフト化(放漫化)しており、事業収入の確保や歳出削減努力がおろそかになる
政府と国民の間、あるいは個別会計の歳出先の公的機関とその財源を負担する国民、納税者、あるいは政治家の間で情報の非対称性が存在するかもしれない
→特別会計の中身まできちんと財務省が査定しているかどうか不明、合理化行動が見られない
特別会計の見直し
2006年からの改革
2007年、「特別会計に関する法律」が成立
1、2011年度までに、特別会計の数を31から17へ縮減
2、特別会計にだけ認められていた特例規定の見直し、共通ルールの策定(剰余金の処理等)
3、企業会計の考え方を活用した財務書類の作成・国会提出やインターネットの利用等による情報開示
2007年参院選の民主党マニフェスト
補助金の一般交付税等による無駄の排除 6.4兆円
談合・天下りの根絶による行政の効率化 1.3兆円
特殊法人、独立行政法人、特別会計の原則廃止 3.8兆円
国家公務員総人件費の抑制 1.1兆円
所得税など税制の見直し2.7兆円
→特別会計総額(グロス)の約1%の規模
しかし、特別会計の実質的な規模は相当に小さい
社会保障費、地方への交付金、公共事業に多くの無駄が含まれていることは確かであるが、そうした無駄はそれぞれの歳出を議論する際に検討すべき無駄
特別会計でそうした無駄を計上し、かつ個々の歳出を議論する際にもう一度無駄を計上すると二重計算になる
埋蔵金論争
特別会計には、ストックベースでみると200兆円規模の積立金がある
→そのうち最大は、年金など保険事業の積立金で約160兆円
財政投融資特別会計22兆円、外国為替特別会計14兆円、国債整理基金特別会計9兆円
もちろん特別会計に無駄はあるが、その規模はそれほど巨額ではなく、過去の借金返済や今後の社会保障需要に十分対応できる水準にはほど遠い
特別会計の将来のために積み立てられている
→一般会計に付け替える形で財政再建に活用できるかは不透明
かりに付け替えが行われれば一般会計の財政状況は改善されるが、特別会計の財政状況は悪化するので、両方を合わせた国の財政状況の改善には無関係、無意味
2008年度予算では、財政投融資特別会計の準備金のうち9.8兆円を国債の償還に充てて、国債発行残高を圧縮
→特別会計と一般会計の会計上のやり取りは単なる政府内部での資金の移転に過ぎず、これによって国の財政状況が改善されることはない
一般会計の財政状況が改善される分だけ、特別会計の財政状況は悪化する
絶対的な無駄の規模は11兆円のうちで一割以下であり、多くみても5000億円程度と考えるのが妥当な規模
独立行政法人の無駄
給与水準が国家公務員よりも相当高い
1、職務の専門性等から、国家公務員と比べて高い学歴の職員が多く、それに応じて給与が高くなっている
2、新規採用職員の雇用の抑制や職務の専門性等から、国の機関と比べて管理職の割合が高く、管理職手当の額が多い
3、事務所が大都市にあり、民間賃金が高い地域に在職する職員に支払われる手当の額が多い
4、特殊法人等から移行したものについては、前身組織が高い支給基準を設定し、これを引き続いて用いている
1はもっともだが、2以下は既得権を擁護しているだけの議論
→したがって、役員報酬については絶対的な無駄が相当ある
ただし、役員報酬総額はそれほど大きくないため、絶対的な無駄の規模としてはせいぜい数百億円程度
人件費における無駄の規模は小さくても、事業規模はけっこう大きい。独立行政法人の存在意義について、より徹底した見直しが必要であることは言うまでもない
→政府は06年度以降5年間で5%以上の人件費の削減を基本として取り組むように指導している
07年に政府は整理合理化計画→これを受け、08年度予算の独法向け財政支出を、前年度比1569億円削減した
天下りと渡り
給与など待遇面で職務の専門性などに客観的にもっともらしい裏付けがあるかどうかを峻別すること
民間からの競争圧力が有効に機能する
複数の会計間を資金が往復しても、現実に金が無駄な歳出に使われていない限り、それ自体で無駄が生じることにはならない
むしろ、特別会計に余剰金があることは、無駄に資金が浪費されなかった結果と解釈することもできる
井堀利宏『「歳出の無駄」の研究』(日本経済新聞出版社、2008年)
第二章 特別会計の無駄―総額300兆円のからくり